設計定数を求めるための代表N値について
代表 N 値(設計用採用値)の決め方 ― 要点まとめ
1.実務でよく尋ねられる「出典」の悩み(改訂)
発注者から「この整理手法の出典はどこか」と問われることが多い一方で、道路土工・道路橋示方書・地盤調査法など主要文献には 「平均値±1/2σで採用する」と明記した箇所はほとんど見当たりません。
しかし、『報告書作成マニュアル[土質編]』(社団法人 全国地質調査業協会連合会)には、 ばらつきデータから設計用値を定める三手法 (a:平均、b:最小/最大、c:平均と標準偏差による補正)が明記されています。 特に c) として次式の例が示され、
設計値 = 平均値 − (1/2) × 標準偏差
(平均値を標準偏差で補正して設計値とする)
と記載されています(第2章 2.7.3、p.74)。 したがって、本稿で用いる「平均 − 1/2σ」という整理は単なる経験則ではなく、公的マニュアルに裏づけのある実務手法です。 なお同マニュアルは、標準偏差の重み係数(1/2 など)の選び方には議論があること、すなわち k の選定はデータ量・ばらつき・重要度等に応じて調整する余地があることも併記しています。
出典:『報告書作成マニュアル[土質編]』第2章 2.7.3「設計用土質定数の設定方法」p.74(a〜c の三手法と「平均 − (1/2) 標準偏差」の例示)
2.建築基礎構造設計規準・同解説(1974)の記述
地盤の場合、土質試験などによって得られる諸数値にかなりのばらつきがあるのがむしろ普通であり、このようにばらつきのある測定値の取り扱いについては、ばらつきの原因とその程度、基礎底面と各試料採取位置との相対的な関係など、複雑な要素が絡むため一概には言えない。しかし通常、1地点で同一土質層について得られた測定値は、その平均値を用いて差し支えないとする。そのうえで、とくにばらつきが著しい場合などは、平均値よりさらに安全側を見込んで 設計用採用値 = (平均値) ± (標準偏差)/2 とする。ここで複号 ± は、算定結果が安全側となる符号をとることとする。
ポイント:1/2 の係数は経験的安全率であり、統計的厳密性より実務的妥当性を重視した経験則。
3.代表 N 値が必要になる場面
- SPT(N値)は土層ごとの強さ・剛性推定の標準的な原位置試験。
- 地盤定数(せん断強度、弾性係数など)へ換算する前に「その層を代表する N 値」を決める必要がある。
- 単一ボーリング内でも N 値はばらつくため、単純平均だけでは過大評価となる恐れがある。
4.実務で広く使われている経験式
Nrep = N − σN/2
- N:同一層で得られた N 値の算術平均
- σN:標準偏差(不偏分散:n−1)
- ばらつきを考慮しつつ安全側(低め)に寄せる簡便な方法。
5.この式の出典と位置づけ
| 出典 | 記載内容・趣旨 | 備考 |
|---|---|---|
| 建築基礎構造設計規準・同解説 (1974) | ばらつきが著しい場合は平均±1/2σを採用 | 建築分野での初出 |
| 土質工学会編『土質データのばらつきと設計』(1988) | 「測定値のばらつき大のとき平均±1/2σ」 | 教科書的に引用される |
| 『土と基礎』Vol.34, No.12 (1986) | ±1/2σ を N 値・強度試験に適用例として紹介 | 学術誌 |
| 『基礎工』Vol.37, No.4 (2009) | 道路橋基礎設計で同式を推奨 | 道路橋分野での普及事例 |
| 報告書作成マニュアル[土質編] | a/b/c 三手法および「平均 − (1/2)σ」の例示(第2章 2.7.3) | 本稿の直接の根拠 |
6.適用手順(推奨フロー)
- 層区分:標高・物性・試料色などで同一層を明確化。
- 外れ値整理:異質レイヤ・試験ミスを除外(±3σ、箱ひげ図など)。
- 平均・標準偏差の計算:σ は n−1 を使用。
- 代表 N 値算定:上式で計算し必要に応じ切下げ。
- ばらつき大の場合:σ/μ > 0.5 を目安に追加調査を検討。
7.FAQ(よくある質問)
| Q | A |
|---|---|
| なぜ 1/2σ なのか? | 長年の実務経験で妥当とされた安全側の補正。信頼性設計の 1−kσ(k≈0.5)に相当。 |
| σ は n 法? n−1 法? | 標本数が十分なら n−1 法(不偏分散)が推奨。 |
| N 値が 1 しかないときは? | σ=0 となるため平均=代表値。必要に応じ保守的低減を別途設定。 |
| SPT 以外にも使える? | 基本的に適用可。ただし対数正規分布を示す量(su・透水係数等)はログ空間で評価。 |
8.まとめ
- 平均 − 1/2σ は公的マニュアル(報告書作成マニュアル[土質編])にも例示。
- ばらつきが大きいほど自動的に安全側へ補正される。
- 外れ値・極端なばらつきには追加調査や層別の見直しが有効。
参考文献
- 報告書作成マニュアル[土質編](社団法人 全国地質調査業協会連合会)第2章 2.7.3
- 建築基礎構造設計規準・同解説(技報堂, 1974)
- 土質工学会編『土質データのばらつきと設計』(1988)
- 『土と基礎』Vol.34, No.12(1986)
- 『基礎工』Vol.37, No.4(2009)
(追加)「設計」計算とは
定義:各機関の設計基準・指針に従って計算を行い、その結果が所定の安全率(許容安全率)を満たしていることを確認する行為(=合否判定のための計算)。
背景の立脚点:施工実績(試験施工を含む)に裏づけられた経験的な安全観に立ち、計算式は過度に繁雑でなく、安全側の配慮が施されている。
安全率の例(常時)
- 構造物(鋼・RC 等):F = 3.0(高い許容安全率)
- 土構造物(盛土・斜面・基礎地盤など):F = 1.2〜1.5(比較的小さい)
ばらつきの配分
- F=3.0 の構造物では、安全率が高いため、データのばらつきの多くは安全率側で吸収されやすい。
- F=1.2〜1.5 の土構造物ではクッションが小さいため、ばらつきの扱い(代表値の作り方)が設計の要。平均・最小/最大・平均±kσ などの統計的二次処理で、設計用土質定数(代表値)を“ほどよく安全側”に決める。
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